広島高等裁判所岡山支部 昭和51年(ラ)5号 決定 1976年3月02日
抗告人(拘束者)
中山功
右代理人弁護士
吉田露男
相手方(請求者)
中山文子
被拘束者
中山忠夫
主文
本件抗告を却下する。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりであるが、人身保護法に基づく下級裁判所の判決に対しては、同法が人身の自由に対する侵害を迅速かつ容易に回復せしめることを目的(第一条)としている建前から、最高裁判所が直接その適否を審査し(第二一条)あるいは最高裁判所自らこれを処理することができる(第二二条)とされている反面、本件決定は判決がなされるに至るまで、かりにとられる処分にすぎず、これに対しては人身保護法上なんら不服申立についての規定は設けられていない点から判断すると、所詮本件決定に対しては抗告をなし得ないものと解するほかはない。
よつて、その他の点を判断するまでもなく本件抗告は不適法として却下することとし、主文のとおり決定する。
(加藤宏 山下進 篠森眞之)
<別紙> 抗告の趣旨
原決定を取消す旨の裁判を求めます。
抗告の理由
一、相手方は昭和五一年二月五日岡山地方裁判所に対して、人身保護法に基づいて抗告人に対して被拘束者中山忠夫を釈放し、相手方に引渡す旨の申立をしました。右裁判所は同年二月一九日の審問期日において以下のような決定をしました。すなわち「主文、被拘束者を判決をするまで仮りに釈放し、請求者にその肩書住所地において監護させる。請求者は被拘束者を何時でも呼出しに応じて出頭させなければならない。」
しかし、右決定は、その義務履行者、履行時期など間接強制についての内容がかならずしも明確であるとはいえず、かつ、被拘束者の健康状態と保護環境をかならずしも充分に検討せずしてなされた事実誤認ないしは不当な決定でありますからその取消を求めるため本抗告に及びました。
二、標記決定は人身保護法一〇条一項に基づいてなされていますが、被拘束者中山忠夫は現在三歳五月の幼児であり、その釈放は、性質上間接強制の手続によるべきものと思料せられます。ところで本件請求書では拘束者は、中山功、中山哲(功の実父)、中山貴子(功の実母)の三名となつていますが、審問期日の審尋においても、人身保護法五条四号の拘束者は中山功ひとりではないのかとの疑問があり、かりにそうだとすれば右中山哲、中山貴子は、拘束者中山功の履行補助者にすぎないことになりますから、右拘束者の地位を訂正した手続をとつたうえで本決定がなされるべきであつたと思料されます。
次に、仮の処分の執行方法については、民事訴訟法の間接強制手続によるべきと思料されます(人身保護規則四六条)。
そうだとすれば、民事訴訟法七三四条が適用ないしは準用され、債務者を中山功に限定したうえで相当の期間を定めて履行するように決定されるべきではなかつたかと思料されます。
三、被拘束者中山忠夫は拘束者中山功の下で、岡山市田中五八四番地県公舎で監護されていたが、昭和五一年二月一九日現在感冒にかかり安静を要するもの(疎甲第二号)であつたところ岡山地方裁判所は、その事情を充分に調査することなく、審問手続を経たのみで、裁判所自ら検証をすることもなくして、被拘束者中山忠夫を拘束者中山功から引き離して、愛媛県伊予郡双海町大久保甲六八四の一、中山文子に監護させる旨の決定をしたが、右中山文子方は辺境であり、近くに医師も診療所もない状況であるから感冒にかかつている幼児を現時点で移動させる旨の決定は右事実を誤認したか不当な決定ではないかと思料せられます。
四、右理由により原決定の取消を求めるため抗告に及びました。